舟越桂展 〜言葉の森〜 鑑賞レポート
舟越桂展~言葉の森~
本郷新記念札幌彫刻美術館
アート
2020 07/23
|ー2020 09/27
UP:2020/08/20
初めて舟越桂さんの作品を観た時、これは聖書の登場人物に違いないと思った。はるか遠くを見ているような目が、神様と対話して生きている人のそれを連想させたからだ。だが実際それは私の早とちりで、それらの作品はヨセフ像でもヤコブ像でもなかった。しかし、舟越さんの作品と言えば、その目のことを考えてしまう。
今回の展覧会は「言葉の森」と題して、彫刻作品と一緒に、その著作からの言葉も多く紹介されていた。正直に言って、めんどうがりの私は、美術館に行って、解説なんてほとんど読まない。今回のも、そうした解説の類かと、無視を決め込んでいたのだが、偶然次のような言葉が目にとまった。
「彼らの目は内面を向いているのかもしれない」
この一節が含まれる文章は、具体的な作品についてのものではない。しかも、前後の文を無視して、この言葉だけ取り上げるのは、我ながら野蛮極まりないと思うのだが、目の向く先に思いを馳せているのが印象的だった。私はそれを遠い外側の方だと思い、彫刻家は内側のようだと語っている。しかも、「かもしれない」と控えめに。この言葉に触れて、私は、やっぱり遠くだ、と思いながら、こころのなかというのもあるかもしれない、と思った。
これは、誰かと気軽に話をしながら作品を観るという経験に似ている。作者から作品の「解答」を教授されたということではない。違う印象を語り合ったことが、かえって、作品の魅力を深めることになったのだ。美術館に言葉なんて野暮と思っていたが、こんな言葉があって、作品が豊かに感じられるのであれば、それは素晴らしいと思った。
鑑賞データ
日時:2020年8月8日
場所:本郷新記念札幌彫刻美術館