「女と男のいる舗道」鑑賞レポート
女と男のいる舗道
シアターキノ
映画
2020 06/06
UP:2020/06/16
緊急事態宣言の解除を受けて再開されたシアター・キノで、ゴダールの「女と男のいる舗道」を観た。スクリーンに映った女優を、これほど美しいと感じる映画も希だと思う。主人公ナナを演じたアンナ・カリーナは、何と言ってもその瞳が印象的だと思っていたが、この度の銀幕の彼女は、その鼻筋と顎のラインが無類の美しさで、私は只見惚れるばかりだった。
ところで、この映画のストーリーは、女優になる夢を諦めきれないナナが、夫と別れて自立を選ぶものの、生活に困窮し、やがて娼婦に身を落とすというもの。この筋だけ聞くと、悲劇のメロドラマか、あるいは、社会派的な作品を思い描くかもしれない。
しかし、ゴダールはこの題材を、そうした映画にはしない。悲劇として同情したり、その悲惨な境遇を通じて社会問題を訴えることはない。監督は、ただ彼女を見つめ続ける。それは、世間的には転落した人生と言われるかもしれないが、だが、一人の人間の生として、彼女の生き方を肯定したいという姿勢に思える。
同情には、時として、相手を憐れな卑下すべき存在と思う「不純」が混ざりこむ。それを拒否するゴダールは「潔癖」だと言えるかもしれない。そして、不純物を取り去った映画には、女優の美しさが一層際立って映し出される。
自粛期間中、テレビとDVDには大変お世話になった。好きな映画、観たかった映画を、お陰で存分に楽しむことができた。しかし、アンナ・カリーナの美しい輪郭のアップは、やはりスクリーンで観るべきものだった。映画館の再開を改めて喜びたい。