札幌交響楽団10月定期演奏会 鑑賞レポート

札幌交響楽団 第623回定期演奏会

札幌コンサートホールKitara
その他

2019 10/18

2019 10/19

UP:2019/10/29

10月の定期演奏会の注目は、何と言っても曲目。バッハの宗教音楽の大作「ヨハネ受難曲」が演奏されました。いろいろな作曲家のミサ曲やレクィエムが定期の曲目にあがることはありますが、演奏時間約二時間に及ぶこの曲が取り上げられる機会は稀です。それだけでも価値のある演奏会でしたが、バッハゆかりの街・ライプツィヒ生まれで、この大作曲家に人一倍思い入れのある指揮者マックス・ポンマー氏のタクトのもと、合唱団、独唱者、オケが一体となって、温かみのある、とても美しい演奏を披露してくれて、感動的なコンサートでした。

しかし、客席に空席が目立ったのは残念でした。もっとも、わたしたち日本人には馴染みの薄い宗教音楽の、更に、とても長い曲というのでは、キタラに足を運ぶのを躊躇される方がいても、いたしかたないのかもしれません。とは言うものの、こうした名曲を聴かずにいるというのも、もったいない話。そこで、もし躊躇してしまった方には、こうした曲に臨むコツとして、以下のことをお伝えしたいと思います。

まず、バッハの音楽を信じていただきたい。キリストの受難の物語やその宗教的意義など知らなくても、その旋律の美しさにこころを打たれるはずです。バッハは音楽で天上の真実を描くと同時に、わたしたち地上に生きる者の耳の喜びも忘れてはいない、ということです。また、曲への別のアプローチとして、もし西洋絵画に興味がある方なら、絵画でおなじみの聖書の場面が、音楽でどのように表現されているのか、耳で追うのも面白いのではないでしょうか。「音楽の父」の懐はとても深いので、どんな聴き手も受け入れてくれるはずです。

最後に、この演奏会について印象的だったことを書きます。それは演奏が終わったあとの長い静寂です。確かに、曲が終わるか終らないかで、嵐のような拍手やブラボーが飛び交うにふさわしい曲目や演奏はあります。しかし、今回のこの曲には、あの長い静寂はとても似つかわしいものでした。演奏を感じて、その静寂を作り出した客席も、この日の奏者の一員だったと言えるのではないでしょうか。コンサートとは、舞台の上の演奏者だけではなく、客席を含めた、会場にいる全員で作るものなのだと感じました。そして、それは、コンサートに通いなれた玄人だけができることでは、決してなく、ただ素直に音楽に耳を傾ければそうなるものだと、わたしは思います。

朝日泰輔

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朝日泰輔