心が動く経験
教文オペラ G.Chiaro presents ドラマティック・コンサートVol.3 Va pensiero sull'ali Dorate ~行け、黄金の翼にのって~
2019 12/04
|ー2019 12/05
UP:2019/12/19
舞台の配置替えの時、舞台に折江さんがふらっと入ってきた。
そのまま、椅子に腰掛け、ボトルから注いだグラスを手にした途端、空気が凍る感じがした。そこにいるのは、折江さんではなく役柄の悪代官スカルピアであり、悪だくみにほくそ笑む姿は客席に緊張をもたらした。
そのような中、倉岡さんが舞台に入ってきた。視線も定まらないひどく動揺した様子は、トスカそのものだった。ふらつきながら入ってきたトスカによって、ピリッとした空気がかき乱されていくのが見えた。
オペラのお芝居を見るのは初めての経験だ。いままでオペラは敷居の高いものという先入観があり、距離を感じていた。
今回、この公演のためのレクチャーに参加する機会を得て、オペラは気負わずに楽しめばよいものなのかな、と思い直していた。しかし、いやいや、客席につくと、自分でも気づかない間に、オペラの見方や意味付け方とかを考えて、肩に力が入っていた。それが、開幕した途端に、頭の中であれこれ考えていたことがスッと遠くに去り、舞台の世界が近づいてきた。合わせて、舞台装置にはない石壁や暖炉までもが見えてきた。これは、頭で考えながらお芝居を楽しむのではなく、目の前でおこっていることをそのまま自分の中に取り込むような感覚だった。そして、この感覚はとても心地が良いものだった。どうして良かったのかうまく言葉にできないまま、閉幕後も余韻に浸っていた。
今、この時の感覚を思い返すと、心が揺すぶられたということが心地良く、そのことに自分で戸惑っていたのも良かったのだと思う。
どう見てよいか分からないまま、ただ、お芝居の迫力に圧倒され、目の前で展開される場面をなりゆきのまま受け入れ、見守るしかできなかった。そして、素になった自分に生の歌声は直球ど真ん中に投げ込まれ、身体の芯の部分、心にヒットした、そのような自分に驚いたのだと思う。
初めて見たオペラでこのような体験ができたのは、とてもラッキーだった。
鑑賞前のレクチャーで、作曲者のプッチーニやトスカについての概要や、オペラ鑑賞の楽しみ方を聞いた。原作を読むと楽しみに幅が出ると聞いたので、付け焼き刃程度にプッチーニやトスカの写真集や入門書を見た。だからこそ、見えないはずの城内の様子や舞台には出てこない兵士の恰好まで想像を広げられたのだと思う。
しかし、オペラやトスカについての理解度はまだまだ十分ではない。きっと知れば知るほど理解が深まり、感動の仕方も複雑になるのだと思う。この感覚は癖になりそうだ。
ご褒美スイーツを味わうように、心を豊かにするご褒美としてオペラを自分の生活に取り入れていけたら素敵だと思う。