ナショナル・シアター・ライブ 「戦火の馬」 鑑賞レポート

ナショナル・シアター・ライブ 「戦火の馬」

札幌シネマフロンティア
映画演劇

2021 02/26

2021 03/11

UP:2021/03/19

英国ナショナル・シアターが厳選した舞台を世界各国の映画館で観ることができるナショナル・シアター・ライブ。今回、札幌シネマフロンティアで上映された「戦火の馬」を鑑賞しました。

「戦火の馬」は、2011年にトニー賞5部門を受賞し、タイムズ紙の「10年間の最優秀劇場公演」にも選ばれるなど、世界で大反響を呼びました。スピルバーグ監督の映画「戦火の馬」は、この舞台を映画化したものです。

実は私は2014年に東京で生の舞台を鑑賞しています。その時の驚きと感動は今でも忘れられません。「人生で一番感動した舞台はなに?」と聞かれたら、私は迷わず「戦火の馬」と答えます。

この舞台の一番の見どころは、馬のパペット(人形)です。馬をリアルに見せようと思ったらパペットを操作する人間は隠したい、というのが普通の発想でしょう。しかし、この舞台ではパペット遣いの役者さんの姿が堂々と表に出ています。この演出は、大きな大人3人で小さな人形を動かす日本の文楽からインスピレーションを得たそうです(パペットについては、こちらの動画https://youtu.be/h7u6N-cSWtYでとてもわかりやすく解説されています)

木の骨組みが露わになっていて、光を通す薄い生地だけが貼られている馬のパペット。一見無機質なようにも見えますが、ひとたび馬のパペットが舞台上で動き出すと、もう生きているようにしか見えません。耳や尻尾の動き、いななき(馬の息遣いやいななきもすべて人形遣いの役者さんが出しています)、なみ足から駆け足まで、あらゆる動きに命が吹き込まれ、愛情すら感じてしまいます。

第一次世界大戦を生きる一頭の馬、ジョーイ。あらゆる試練に晒されながらも、ジョーイは戦場で出会う人たちの心を癒し、生きる希望を与えます。馬は人間の言葉を話すことはできません。だからこそ、人と動物との絆の美しさ、家族の愛情、戦争の悲惨さなどをより強く訴えかけてくるのではないかと思います。

舞台全体も非常にシンプルな作りで、最小限の小道具、舞台装置と光と影の演出だけですが、そこで描かれる情景は非常に豊かなものでした。物語のナレーションとなるフォークソングも素晴らしく、上演時間3時間のすべての瞬間が感動に溢れていました。

大澤香織

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大澤香織