エレガントな怪女、彗星の如く現る!
Greta グレタ
2019 11/09
UP:2019/11/10
サイコスリラーはお好きでしょうか?
痛快コメディーや涙腺ゆるむ感動のヒューマンドラマも好きだが、映画史上に残るサイコスリラーの名作は数知れず、出会うたびに好きなジャンルであることに気づく。
鬼才 ニール・ジョーダン 監督(アイルランド人)の新作『Greta グレタ』もサイコスリラー。予想不可能な展開で手に汗握る恐怖と先の読めない息を呑むシーンが続いていく。
ニール・ジョーダン監督は、女性の描き方に容赦ない。深い心理を可視化して観客の心をつかむのだ。それは出演者の表情、仕草などの演技、はたまた衣装(バッグや靴など)や小道具にも現れる。
今回W主演となるフランス映画界の至宝イザベル ・ユペールとハリウッド若手代表格クロエ・グレース・モレッツ。鬼才監督とこの2人の女優の顔が揃った情報だけでも、すでに期待感が高まり映画館へと足早になる。もちろん実力派揃いの全てのキャスティングに見応えがあった。
カンヌ国際映画祭女優賞、ヴェネチア国際映画祭女優賞、ベルリン国際映画祭銀熊賞(芸術貢献賞)という華々しい受賞歴とフランス映画界ではセザール賞のノミネート数が最多なイザベル・ユペール。成熟した女性の表裏様々な顔を見事に演じきることが多いユペールは、今回の作品でイメージダウンしそうな怪女な役にも厭わず果敢に役をこなし、観客を惹きつけ夢中にさせる。
別の作品では、ある監督がユペールを「恐れを知らず、何でもやってみる。驚くほど勇敢だ」と語っていたことが頭をよぎる。私も彼女の魅力に惹きつけられる熱烈なファンだ。不動の大女優の座を継続しているユペールのプロ根性に毎回脱帽する。
もう一人の主人公を演じたクロエは緻密な感情表現が見事で職人技が光っていた。
ストーリーは優雅に穏やかに始まる。未亡人グレタ(ユペール)の落し物を届けるフランシス(クロエ)。母を亡くしたフランシスと孤独な未亡人グレタの交流が始まる。
最初は微塵の恐怖も感じないグレタだが、徐々に化けの皮が剥がれてゆき、サイコな人格がジワジワと現れてモンスター化する。観客の脳裏に強く印象に残るであろう名シーンがいくつも生み出されていた。
グレタの一挙一動、顔の表情から目が離せなくなる。まさに彗星の如く現れた特異な魅力を放つ怪女だ。往年の名作の中に登場するダークな登場人物たちにも引けを取らないほど抜きん出る強烈なインパクトを放っていた。何よりグレタの風貌はエレガント。だからこそ際立つゾッとするシーンの数々なのだ。
何だかスッキリしない余韻を残すラストシーンに、観客の想像力を掻き立てて続編もあるような予感がした。