「雪の消息 残像の庭」鈴木康広展鑑賞レポート
鈴木康広 雪の消息|残像の庭
札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市民交流プラザ1-2階)
アート
2019 08/17
|ー2019 09/16
UP:2019/09/02
例えば、空に浮かぶ雲が人の形に見えたり、遠くの山の稜線が動物の背中を想像させたり、そんな、わたしたちがよく体験する錯覚が、鈴木さんの作品の原点なのではと思いました。水滴がつくる波紋と木の年輪が重ねあわされる「水の切り株」という作品。また、椅子の影が音符に見える「椅子の音符」。こうした作品は、視覚の錯覚に基づく作品といえるのではないでしょうか。
また、時間の錯覚も、鈴木さんの作品に見られるものです。ジャンルジムに過去の映像が映し出される「遊具の透視法」という作品は、目の前の遊具に過去を見るという、時の錯覚に他なりません。更に、最新作である「氷の人」は、変化、つまり「ある形から別の形へ」という錯覚の原点にあるものを体現している作品といえます。
このように、鈴木さんの作品の根本には「錯覚」という現象があるように思うのですが、それは決して、不気味さや居心地の悪さを訴えてくるものではなく、むしろ、安らぎや静かさ、そして何より心地よさを与えてくれます。
思えば、わたしたちは、雲を人に見立てたり、山から動物の姿を想像して、楽しみ感じます。また、過去を懐かしむ気持ちも、多くの人が折に触れ体験するものでしょう。そうした、錯覚のエッセンスのようなものが、鈴木さんの作品には満ち溢れています。「錯覚の詩学」とも呼べる、美しく、安らぎに満ちた鈴木さんの作品を、是非多くの皆さんに鑑賞していただきたいです。