「空」の境地とは?
SCARTSステージシリーズ 鈴木明倫 ダンス公演 Remember us
2021 02/25
UP:2021/03/26
演劇や音楽に比べると一般にはまだまだ馴染みの薄い現代舞踊ということを考えると、アコースティックギタープレイヤー山木将平とコンテンポラリーダンサー鈴木明倫によるギターとダンスのコラボレーションは意外性があって面白かった。
まず舞台に上がった二人は対照的だ。長身で鋼のような力強い筋肉や、まっすぐに天に向かって伸ばされた癖のない背筋、まるでスパイダーマンのように何もかもバランスのとれた身体を持つ鈴木氏に対し、小柄で猫背で少しメタボだけど、ギターの音色はどこまでも優しく、何もかも包み込むように奏でる山本氏との全く相反する極端な両極が、それまで見たこともないような世界を見せてくれるのではないかと期待させた。
テーマは「十牛図」。禅の悟りの世界を表したものであるが、知覚しながら互いの接触によって、その二人の間に生まれてくる支え合う存在としての身体には、感情的な昴揚やドラマチックな終末はないが、平板な時間を丹念に体験してゆく行為としてのダンスと音楽があったように思う。互いの存在をさまざまに選び取り、瞬時に次に移行しながら反射的な対応と二人の関係の信頼において創り出されるダンスは、とてもシンプルで哲学的で精神性の高い作品に仕上がっていた。
特に目を引いたのは、真っ白な紙をステージ一杯に並べ、並べ終わったとたん互いに無邪気な子どものようにその紙で遊び始めたことだ。ありのままの自分を素直に楽しむということだろうか。走ったり、滑ったり、紙吹雪にして投げ合ったり、飛ばしたり、観客を巻き込んで狭いステージは二人の新しい挑戦の場を提供した。自分のやるべきことは何か。幸せとは何か。禅で言うところの悟りの境地に至る十のプロセスはなかなかに楽しそう!
現在主流を占めているのは、他のジャンル(例えば美術、音楽、演劇など)の境界を自在に横切り、互いにより斬新な表現を求めて融合を図るステージ・インスタレーション。彼らもまた、意味をダンスだけに囚われることなく、今回のようにあるがままの自分を探す旅を模索し続けていくだろう。それにしても、煩悩からの脱却は難しいテーマである。