文豪の最期の花道、 世界的ベストセラー誕生の舞台裏

人間失格 太宰治と3人の女たち

札幌シネマフロンティア
映画

2019 09/13

UP:2019/09/21

今年6月19日、生誕110年を迎えた文豪 太宰治。彼と深く付き合ったとされる異なるタイプの3人の女たちとの関係に光を当て、監督である写真家 蜷川実花さんならではの独特な世界観で、太宰の死の直前に完成させた世界的ベストセラー『人間失格』誕生秘話を加速させる。

悲劇がつきまとう太宰を、歴史的に著名な文豪というより、一人の人間として最期の濃密な1年半を蜷川組が華麗に表現し、極彩色豊かなシーンや衣装、魅惑的な光と陰影(照明)、美しい花や水といったアイコンをちりばめた美術。バーや部屋の壁には、伊藤若冲の『雪中錦鶏図』、夭折の画家エゴン・シーレの絵も飾られている。登場人物の心情に寄り添う音楽も素晴らしく、エンターテイメント溢れる作品だ。

女性関係ではスキャンダラスな噂が絶えず、サラリとキザなセリフをささやき、女たちの心を鷲づかみ、一瞬にして惹きつけている、ダメ男にしてモテ男、太宰治(本名 津島 修治)。

でも、どこか滑稽でユーモアがあって飄々としているところもあってなのか、人間臭く憎めないかわいさも時々顔を出す。世間によく知られている一面とは異なる魅力が表現されていた。

強烈な光と影の両面を併せ持つがゆえ、スターの華やかさの裏に潜む孤独や悲哀さを背中や口元が物語っているところも見所の一つ。まるで太宰が憑依しているかのように現代の人気俳優 小栗 旬さんは鋭く演じていた。銀座バー・ルパンでのあまりにも有名な一枚の写真と同じポーズのシーンは印象的だった。

相手の本質を引き出して状況を鋭く察知し変幻自在する太宰は水のような人。ある時は優しくて甘く、ある時は残酷。太宰治(本名 津島 修治)という水の中で、それぞれの願いを叶え大輪の花を咲かせるのは、知れば知るほど魅力的な3人の女たち。

一見不幸せな事のように思えるドラマティックなできごとは、それぞれの女たちの願いを叶えていく。 正妻 美知子を宮沢 りえさん、愛人で『斜陽』のモデルの静子を沢尻 エリカさん、最後の愛人で心中相手の富栄を二階堂 ふみさん。豪華な実力派女優が演じ、終始目が離せない。

何のためらいもなく太宰に溺れ、堕ちて、時に何かを壊す3人のヒロインたち。3人に共通すること、それは根底にある太宰への強い愛情。美知子は気丈に、静子は天真爛漫に、富栄は献身的に。

上映時間中だけは、私も地獄の果てまで堕ちていきそうなくらいヒロインたちの眼差しで蜷川組が生み出した太宰の姿を夢中に追っていた。

Maki Tanaka

レポート

Maki Tanaka