進藤冬華「移住の子」鑑賞レポート

『進藤冬華 | 移住の子』

モエレ沼公園ガラスのピラミッド
アート

2019 07/20

2019 08/25

UP:2019/08/19

 一部の現代アートには、例えばキャンバスに描かれた色や形の美しさを純粋に味わうという鑑賞が、しにくいものもあります。つまり、作品についての説明を聞いて、又は読んではじめて理解できるというものがあるというこです。現代アートにとっては、「言葉の比重が大きい」と言えるのかもしれません。
 そんな現代アートについて、眉をひそめる方もいらっしゃるかと思いますが、「移民の子」と題された、進藤冬華さんの展覧会も、傾向としてはそのようなものだと、まずは言えると思います。しかし、それは、単に小難しい理論を押し付けて来るものではありません。アートを通じてある事象を理解する、もしくは、表現することで物事の理解を深める、そんな新たな方法論を教えてくれる展覧会でした。
 進藤さんは、明治時代の北海道開拓顧問ホーレス・ケプロンをリサーチしながら、開拓の歴史を振り返ります。それは、歴史家や郷土史家のような仕事ですが、彼女の取り組みは、単に過去を記録するということに止まるものではありません。その過程で知った事実を基に作品をつくることで、その開拓という過去と、自分とのつながりや違和感を浮き彫りにしていきます。即ち、自分の理解や感じたことを形にして、改めて鑑賞者に問うてくるのです。あなたは、過去をどのように考えますかと。
 例えば、「8つの旗」という作品では、北海道の開拓と、ケプロンが理想としたであろうアメリカの開拓の共通性が表されていると同時に、開拓が国内の植民地化であるという側面が描かれています。現在につながる北海道を作った先人に感謝しつつ、なにか全面賛美とは言い切れない違和感。作者がリサーチを通じて感じたそれを、なんとも滑稽な図柄が物語っているようです。
 リサーチに基づく進藤さんの作品が、「言葉の比重が大きい」ものであるのは確かだと思います。しかしそれらは、事実の確認だけでは掬いきれない、過去と現在との関係をわたしたちに提示してくれます。どこかユーモラスな進藤さん作品は、硬直し権威化しがちな歴史の理解を、もみほぐして、より自由な過去とのつながりを開いてくれたように思います。

朝日泰輔

レポート

朝日泰輔