萩尾望都著「私の少女マンガ講座」 

萩尾望都著『私の少女マンガ講義』

書籍
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2021 07/01

UP:2021/10/06

随分昔に妹から「ポーの一族」を借りて読んだくらいなので、萩尾望都のファンなどとは言えませんし、ましてや日頃から少女マンガを好んで読んでいるというわけでもありません。しかし、今や日本が世界に誇る文化である漫画の、とりわけ異彩を放つジャンルである少女マンガの代表的な作家が、そのジャンルそのものと自身の創作について何を語るのか、非常に興味があり読んでみました。それは期待に違わず面白い内容だったのですが、二つの特筆すべき点をあげておきたいと思います。

まず一つ目は、少女マンガの歴史を深く理解できる点です。黎明期の1950年代から2000年代までを、各年代の代表作をあげながら俯瞰するのですが、それが、漫画の一分野の歴史であるとともに、日本社会における女性の立ち位置の歴史であることが分かります。その時代時代に女性たちが託した思いを、「リボンの騎士」から「大奥」までの具体的な作品の中に見出す著者の洞察力は、見事としか言うほかありません。

二つ目は、萩尾望都による自身の作品解説が、芸術作品の創作論として含蓄に富むものだということです。そのなかで、東日本大震災以後の創作の変化を辿る話なども興味深いものでしたが、とりわけ、「コマ割」といったテクニカルな話題で、自身の作品や他の著者の特徴を解説するところはとても面白い。これは、文学でいうところの文体論に当たるのでしょうが、このような漫画の作品分析を初めて読んだように思います。

あらためて、萩尾望都作品のみならず、少女漫画という世界に類を見ない作品群を、読みたいという思いにさせてくれる一冊でした。

鑑賞データ
萩尾望都著「私の少女マンガ講座」
新潮文庫

朝日泰輔

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