映画『ナイトクルージング』鑑賞レポート

映画「ナイトクルージング」

映画
映画

2019 03/30

UP:2022/03/08

映画『ナイトクルージング』(監督・佐々木誠、プロデューサー・田中みゆき)は、全盲の男性による映画制作を追ったドキュメンタリーだ。主演の加藤秀幸は先天性の全盲で光すら感じたことがない。視覚をもたない加藤が自らの構想を映像化すべく、スタッフと共に奮闘する過程が記録されている。

加藤が挑むのは短編のSFアクション映画。人間離れした動きや世界観を伝える空間を、美術家やCG技術のクリエイターらの協力のもと描く。

その制作過程は、クリエイターたちの戸惑いを色濃く映し出す。共に映像をつくるためには、加藤のビジョンを明確に捉え、かたちにして確認し合う作業が必要となる。しかし、そもそも加藤のビジョンは視覚を伴うものではなく、本人は示されたサンプルを見ることもできないのだ。

晴眼者であるクリエイターらは、さまざまな方法で加藤と共通言語を探り合っていく。触れることで構図を把握する。音で動きを掴む。時には身体を使って表すことを求める。彼らが各々の手法でイメージをすり合わせていくプロセスは興味深い。

互いの違いを認識し、そのうえで同じものを見ようと試みること。それは他者や理解の及ばない物事を想像し、たぐり寄せる行為に他ならない。

完成した映像を全盲の加藤が見ることはない。彼らが加藤と同じビジョンを描けたのかは誰にも分からない。答え合わせの必要はないと思える。それぞれの感覚は、異なったまま、共に存在するものだろう。

a.ito

レポート

a.ito