映画「プラド美術館 驚異のコレクション」 鑑賞レポート

プラド美術館 驚異のコレクション

映画

2020 07/26

UP:2020/07/29

ベラスケスを大画面でじっくり観られると期待して映画館に行くと、肩透かしにあいます。「女官たち」だけではなく、どの作品も、さほど詳しく紹介されるわけではないので、プラド美術館の名品をスクリーンで存分に楽しむというようにはいきません。所蔵品の数と質を考えると致し方ないところですが、「この美術館は走って鑑賞するのが作法なのだ」と言わんばかりの、落ち着かない映画のつくりです。

この映画は、プラド美術館をめぐる歴史と様々なエピソードも紹介してくれます。歴代スペイン王たちの美術品蒐集への情熱、20世紀に起きた内戦時の絵画の疎開など、そのどれもが面白い。ですが、これらも深堀されることはなく、いささか残念。

しかし、そんな忙しい映画の中で注目したいのは、女性画家や、今で言うところのLGBTを題材としたと思しき作品の紹介に、時間を割いているところです。これには、社会の価値観の変化によって、アートに対する観方も変わってきたことが関係しているのでしょう。「帝国の威信」を表す美術から、「芸術はすべての人のものだ」という考えへ変化。この映画は、社会における美術館のあり方の変化を描くことで、プラド美術館が、未来にも存在し続けるということを訴えたかったように思います。

おそらく、そうした社会におけるアートのあり方の変化や期待される役割に、私達アートコミュニケーターの活動も関係しているのだと思うと、それはそれで感慨深いのですが、でも、やっぱりベラスケスをじっくり観たかった。

鑑賞データ
日時:2020年7月26日
場所:シアター・キノ

朝日泰輔

レポート

朝日泰輔