映画「パラサイト」鑑賞レポート

パラサイト

映画

2020 01/10

UP:2020/03/12

「今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である」と書いたあの人も、きっと目をまるくするような驚きの展開。「パラサイト」は、正にそんな映画でした。イデオロギー的な視点や価値観から映画を評価するのは好きではありませんが、作品で描かれた格差社会とそれが生み出す惨劇を目の当たりにすると、「階級闘争」をはじめとする、あの大思想家の言葉が頭をよぎります。

「ヨーロッパに幽霊がでる」という有名な一節も、どきりとさせられます。ネタバレ厳禁のこの映画ですから、あまり詳しいことは言えませんが、大金持ち一家のお宅に、ナント出るんです、幽霊が。さすがは、格差問題と言えばこの人と、いまだに言われるだけのことはある先見の明。この映画を予言していたということでしょうか。

しかし、さすがのその人も、物語の展開には、目をまるくするしかない驚きを抱くに違いありません。この映画が描く「階級闘争」の結末は、貧しいものが富める者に勝つといった単純なものではない。それは、富裕層も貧困層も共倒れになる、つまりは、ある社会全体がまるごと崩壊してゆく様だったと言えるでしょう。1848年に有名な「宣言」が出されてから約170年たった世界の現実を、映画「パラサイト」は、時に笑いを交えながらも、目を背けたくなるような陰惨な表現で、容赦なく描き出します。

ラストシーンで、主人公は大金持ち一家が住んでいた家を将来手に入れたいと夢見ます。しかし、その理由は、貧困から抜け出して富裕層のステータスを得たいということではない。それは、言うなれば、失ってしまった絆を取り戻すためなのです。わたしたちは、これからの社会がどのようにあるべきか、本当に大切なものは何なのか、「共倒れ」になる前に、しっかりと考えなくてはいけない瀬戸際にいるのかもしれません。

コメディのようなはじまりからグロテスクなカタストロフィにいたる展開に目をまるくしながら、社会の在り方まで考えさせられる、映画「パラサイト」は、本当に驚愕の一本。いろいろな意味で、とんでもなく面白い。

もちろん、イデオロギーなんて抜きでも楽しめますので、ご安心を。

朝日泰輔

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朝日泰輔