チョン・キョンファ ヴァイオリンリサイタル 鑑賞レポート

チョン・キョンファ ヴァイオリンリサイタル2019

北広島市芸術文化ホール
音楽

2019 10/06

UP:2019/10/09

演奏が始まってすぐにハプニングが起きました。わずが数小節を弾いたところで、ヴァイオリンとピアノの出が合わず、演奏がストップしてしまったのです。半世紀を超えるキャリアを誇る、正にヴァイオリン界の「レジェンド」と呼ばれるに相応しいチョン・キョンファですが、年齢と共に音楽の深みが増しているという評価の一方、衰えも隠せないという声も聞いてはいました。彼女の演奏を生で聴くのは初めてなので、大いに期待をしていたのですが、開演早々不安がよぎります。

この日のコンサートは、ブラームスが作曲した三曲のヴァイオリン・ソナタを、一番から三番まで、順番にすべて弾くというプログラム。冒頭やりなおしをした一番は、その後も音が安定せず、お世辞にもいい演奏とは言えないものでした。このままコンサートが続けられるのだろうか、正直そこまで思ったほどです。

しかし、一度舞台袖に入って、出直してからの二番は、まるで別人の演奏。音に安定感がでるとともに、表現がより大胆になり、素晴らしい演奏でした。そして、真骨頂は休憩後に演奏された三番。この演奏を「粗い」と感じる方も多いと思います。しかし、曲に挑みかかるようなその表現は、演奏者の強い意志を感じさせ、それは聴き手であるわたしの心を大いに揺さぶりました。

改めて、いい演奏とは何だろうと考えます。この日のチョン・キョンファの演奏には、ミスが沢山ありました。その意味で「完璧」な演奏ではなかったかもしれません。しかし、それを超えて、聴き手に強く伝わってくるものが、その演奏には確かにあった。これが、音楽に限らず、人間のすることの不思議なところだと、つくづく思います。音楽を聴く面白さと喜びを感じさせてくれる、素晴らしいコンサートでした。

朝日泰輔

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