クァルテット・エクセルシオ 札幌定期演奏会 鑑賞レポート 

クァルテット・エクセルシオ 第13回 札幌定期演奏会

札幌コンサートホールKitara
音楽

2020 07/01

UP:2020/07/15

7月1日kitara小ホールで弦楽四重奏団カルテット・エクセルシオによる演奏会が開かれた。kitaraでコンサートが開かれるのは約四ヶ月ぶりのこと。入場時の消毒やマスクの着用、回収されるチケット半券に連絡先を記入するなど、様々な感染症対策が取られたうえでの開催ではあったが、開演前のアナウンスが「キタラに音楽が帰ってきました」と告げていたように、待ち望まれた再開であった。

演奏会自体はとても充実した内容だった。まずプログラムについて、ベートーヴェンをメインに置き、その前にモーツァルトとバルトークを置くという選曲は、弦楽四重奏というジャンルに作品を残した代表的な作曲家を並べて、その歴史を俯瞰するようなもので、各曲を聴き比べると、それぞれの作曲家と曲の個性が際立ち、とても興味深いものだった。

また、カルテット・エクセルシオの演奏は、四人のメンバーが、緻密に合わせながらもしっかりと個々の主張はするという、とてもバランスの取れたもので、安心感を持って聴くことができた。それは、カルテットの一人一人が互いを信頼し合っていればこそ可能なことなのだろう。仕事も遊びも「リモート」が推奨される昨今、人が集まるとこんなにも美しいことができるのかと感動を覚えた。

しかし、演奏の素晴らしさにも関わらず、久しぶりに生で音楽を聴けるという心の昂ぶりを感じることは、当初思っていたほど出来なかった。一席おきに座るために一層まばらな客席や、いつもより静かなロビーを見ると、寂しさと、以前のように人々が演奏会に集まる日が戻ってくるのだろうかという不安を強く感じた。音楽のみならず、芸術を取り巻く環境が、とても厳しいことを痛感する。

コロナによって様々な社会活動に変革が求められているが、私は芸術鑑賞に関しては、コロナ以前の形に戻ることを願っている。それは、社会における芸術の必要性について何か深い思想があるからではなく、これまでコンサートホールや劇場で経験してきたことが忘れられないからだ。人は一生を変えるような経験を客席ですることが出来ると、私は強く思っている。だから、これまで通り、そうした場所に自分の席を確保したい。そして、それは、開演を待ちわびる賑やかな客席の中の一つであってほしいと願っている。更に、そんな席を次の世代の人に譲ることが出来れば嬉しい。私は、そうした席に座り続けるために、自分に何ができるのか考え、今出来ることをしていきたい。

7月1日の演奏会のメインの曲は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番だった。この曲の第三楽章には「病が癒えたものの神への感謝の歌」という一文が添えられている。以前から決まっていた曲目なので、この現状を意識したわけではないだろうが、その日この楽章は回復への祈りとしてホールに響いた。それを忘れることはないだろう。しかし、次回は、本当に「回復への感謝の歌」として、多くの人とこの音楽を聴く感動を分かち合いたい。

鑑賞データ
日時:2020年7月1日
場所:札幌コンサートkitara小ホール
演奏:カルテット・エクセルシオ
曲目:モーツァルト弦楽四重奏曲第23番
バルトーク弦楽四重奏曲第3番
ベートーヴェン弦楽四重奏曲第15番

朝日泰輔

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