『移住の子』という名のタイムマシンに乗って

『進藤冬華 | 移住の子』

モエレ沼公園ガラスのピラミッド
アート

2019 07/20

2019 08/25

UP:2019/08/29

古きを訪ねて新しきを知る。
この展覧会は、正に温故知新をテーマに展開されていた。驚いたことに進藤さんの作品を鑑賞していくにつれ、私個人の昔懐かしい記憶がよみがえり、身近にいた家族の姿や顔が思い出され、様々なシーンが呼び覚まされる現象が起こったのだ。過去から届いた何か大切なメッセージに気づく。過去と現在が交錯した不思議な記憶の旅、タイムトラベラーとなって引き込まれていった。
静かな水面・ゆったりと流れるという意味を持つアイヌ語の「モイレペッ」を由来とした地名「モエレ沼」。そこから名付けられた開催場所の『モエレ沼公園』。園内のガラスのピラミッド2Fの展示スペースは過去と現在が交信できそうな雰囲気が漂っているようだった。
進藤さんの緻密なリサーチ、大胆な探索結果やインスピレーションから新たな形で表現されたアート作品としての北海道開拓史。歴史の教科書とは違った切り口でユニークな見方で捉えていて、アートの世界だからこそできる表現だなと興味が深まりながら展示スペース内で過去と現在とを往来し、気づけば何かに対しての先入観や固定されたイメージは破られ、自由な気持ちで作品からのメッセージを感じとる時間がどんどん楽しくなってきた。
現代アートの見方感じ方に正解はないが、一見すると難解で作者の真意を汲み取りにくいことが実際のところ。今回貴重にも進藤さんへのインタビュー取材の機会を得ることができて直接話を伺えた願っても無い機会。一気に関心が高まり、何か熱くグッとくるものがあった。進藤さんのアーティスト魂を感じた瞬間でもあった。作品が生まれるまでのエピソードなどを聞く力もグッと増してきた。展覧会は単に作品を鑑賞するに留まらず、『移住の子』という名のタイムマシンに乗って過去に思いを馳せながら、先人の深い恩恵に支えられていることを決して忘れてはいけないと気づくことができた時空を超える体験となった。

Maki Tanaka

レポート

Maki Tanaka