「幸せは生活の襞のなかにある」

空間シアターアクセプ2019札幌公演「つる割れた茎」

シアターZOO
演劇

2019 08/24

2019 08/25

UP:2019/08/26

舞台は青森の町工場。雪かき用のスコップを作る零細企業。
登場人物は元社長の父・一郎と現社長の息子・豊、それに息子の嫁・幸子とスナックのママ・京子、町工場のベテラン社員(成田)と新米社員(坂本)、さらに成田の婚約者・美咲を含めて7人である。

彼らが織りなす人間模様に、ドラマチックなことはこれっぽっちも起きない。胸キュンな恋も、冒険物語も記憶喪失もない。ごく普通の人間が、紛れもなく生きていて暮らしている様が、当たり前のように舞台上で繰り広げられるだけである。まるでドキュメンタリー映画のようだ。
ただこの作品の登場人物たちが話す津軽弁や佇まいは、とても心地よく、親戚の家に来たような錯覚を覚えるほどであった。いるいる、こんな人たち。どこか他人のような気がしない人たち。あるある。あんな工場の休憩室。足をのばして、お茶を飲んで世間話をしている人たち。どこにでもある日常風景。

それにしても、現社長の豊が腹立たしい。スナックのママに入れあげ、妻・幸子をこれでもかと泣かす情けない男である。思わず、女性陣の健気に頑張る姿に「本音で言いなよ」と客出しで声をかけてしまいそうになった。会社のお金まで手を出す豊の前からは、大切な人が次々と離れていく。当たり前だ。「そばでただ見守ってくれる存在、支えてくれる存在の尊さをいやと言うほど味わえばいい」と、思っていた矢先、逆切れした豊のご乱心シーンは本当にビックリするほど、大暴れで迫力満点。破壊力が半端ない。まるで家庭内暴力だ。でも千秋楽でよかった!(笑)

幸せを求める前に、今ある生活を大切にしよう。そう思った。幸せはその存在を忘れている時に一番輝くのだと、この舞台は私に教えてくれていた。

Kazuko Tanaka

レポート

Kazuko Tanaka